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東京高等裁判所 昭和47年(行コ)63号 判決

控訴人 山菱不動産株式会社

被控訴人 日本橋税務署長

訴訟代理人 中村勲 田端恒久 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

当裁判所の認定・判断も原判決理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

なお、控訴人は当審における争点として、未収利息相当分の損金算入否認を特に不当と論ずるので、以下この点について判断を追加する。

控訴人及び山初印刷がいずれも山本初三の支配する同族会社であつて、控訴人が右山初印刷に対し原判決別紙1ないし5の各表のとおり債務引受及び貸付をしてそれを同表記載のとおり処理し、右債務引受(求償金)及び貸付(以下この両者を債務引受等という。)の金額に見合う合計金四一、三九〇、六二九円を山初印刷に対する仮払金として計上するとともに、右仮払金に対する仮払発生の日から昭和三四年三月までの利息として、原判決別紙6表記載の金額(合計金七、二五五、六七五円)を未収金として計上し、更に、昭和三七年六月一日山初印刷との間で右債務引受等の仮払金と未収利息の合計金四八、六四六、三〇四円を一括して準消費貸借契約を締結し、右未収利息を仮払勘定に振替え、以上の仮払金の合計額(金四八、六四六、三〇四円)を昭和三八年三月一二日に全額免除の処理をして本件係争事業年度に貸倒損失として損金の算入をするに至つたことは原判示のとおり当事者間に争いのないところである。

しかして、〈証拠省略〉によれば、同族会社における行為計算否認の規定に依拠して、無利息ないし一般より低率の利息の貸金については、一般の金融取引と同等程度の利息を計上してこれを益金に算入する取扱(いわゆる認定利息の取扱)が、課税当局を含め税務会計上の実務として行なわれていることが認められ、控訴人が前記のとおり原判決別紙6表記載の未収利息をそれぞれ当該年度の益金に計上したのも、この取扱に基いたものであることが右証言によつて窺うに十分である。

そして、控訴人はこれを論拠に、控訴人が本件係争事業年度において貸倒損失として処理した金額のうち少なくとも右の未収利息(いわゆる認定利息)はその元本債権たる債務引受等と性質を異にし、未収利息相当額金七、二五五、六七五円は既往の事業年度において益金に算入されているのであるから、その回収不能が確定した時点において損金に算入しうべきはずであると主張する。

しかし、本件では前記のように債務引受等とその未収利息の仮払金が全額免除され、それが貸倒損失として損金算入の経理が行なわれたのを機会に、これが旧法人税法三〇条一項の規定する同族会社の租税不当回避の行為計算に該るとして否認されるに至つたのであり、このように元本債権とその未収利息の全額貸倒処理がその後の事業年度において課税上改めて否認の処置を受けた以上、そのうちの未収利息相当分が前記実務上の取扱から既往年度において益金に算入されて所得の対象に計上されたことがあるとしても、それだけの理由で元本債権と別個に未収利息分だけの損金算入を是認すべきことにはならない。

なんとなれば、同族会社における行為計算否認の制度は、租税の公平負担の原則に由来し、法人税法の適用を受けるべき法人がすべて経済的、合理的な取引活動を行なつているものとの前提に立ち、とかく同族会社に認められる不自然不合理な行為計算による租税不当回避を抑止しようとするところにあるのであるから、控訴人のいういわゆる認定利息が右の趣旨から計上されて益金に算入されたとすれば(それが納税者の申告によると、課税当局の更正決定によるとを問わない。)、その益金算入はその事業年度における当該法人の法人税の経理として当然理由のある処理というべきであり、このようにすることによつて当該法人はあるべき自然かつ合理人的な経済人として法人税法上容認され、その取引活動を右の経理記帳のとおりのものとして擬制されるのである。そして、控訴人は税法上かかる処遇のもとにあつて、本件係争事業年度において山初印刷に対する債務引受等(元本債権)とともにその未収利息を貸倒損失として損金に算入したところ、引用にかかる原判示のように、その債務引受等が同じ山本初三の支配する個人会社間の取引で、しかも事実上倒産している会社に対するものであることを理由にその金額免除による貸倒損失計上が税負担不当回避の行為計算であるとして改めて否認されたのであるから、その元本債権に附帯する未収利息債権が運命を共にするものとして、同様の理由により損金算入を否定されることになるのは、行為計算否認の制度趣旨と利息債権の法的性質からやむをえないところというべきであり、また、既往年度における益金算入とかかわりない右未収利息分の損金算入否認の処理は、税法における期間損益計算の建前からも当然の帰結といわなければならない。

これを強いて換言するならば、同族会社が通常の利息の約定でその個人支配の他の会社に貸付をして未収利息を益金に計上したのち、別の年度においてその元利債権を免除して貸倒損失の処理をし、それが税負担不当回避の行為計算として否認された場合と何ら異るところがないのである。

以上の理由により、原判決の判断は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅賀栄 染田源次 佐々木條吉)

【参考】一審判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

原告は「被告が原告の昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年度の法人税につき、昭和三九年六月三〇日付をもってした更正処分および過少申告加算税賦課決定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

第二原告主張の請求の原因〈省略〉

第三被告の答弁および主張〈省略〉

第四被告の主張(貸倒損失否認の点に関するもの)に対する原告の答弁および反論〈省略〉

第五証拠関係〈省略〉

理由

一 原告主張の請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、被告のした本件課税処分の適否について判断する。

(一) 本件更正通知書の理由附記の点について〈省略〉

(二) 貸倒損失否認の点について

1 原告会社はその発行済株式総数の九〇パーセントを、また、山初印刷はその発行済株式総数の六五パーセントをいずれも山本初三が所有する同族会社であること、原告が山初印刷に対し別紙1ないし5記載のとおり債務引受等をなし、これにつき、別紙1ないし5の各表記載のとおり処理し、右引受額等に見合う金額(債務引受相当額合計二七、二四四、一〇二円、貸付金相当額合計一四、一四六、五二七円)をいずれも山初印刷に対する仮払金として計上するとともに、右仮払金に対する仮払発生の日から昭和三四年三月までの利息として別紙6記載の金額を未収金として計上したこと、原告が昭和三七年六月一日山初印刷と右仮払金および未収利息の合計四八、六四六、三〇四円を一括し、これを既存債務とする準消費貸借契約を締結し、右未収利息を仮払金勘定に振替えたこと、ところが、昭和三八年三月一二日原告は右山初印刷に対する仮払金の合計四八、六四六、三〇四円につきその全額を免除し、これを貸倒れとして貸倒準備金四三五、五九五円を取崩し、その残額四八、二一〇、七〇九円を貸倒損失として本件係争事業年度における損金に計上したことは当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉および弁論の全趣旨によれば、山初印刷は昭和二六年以降極度の経営不振に陥り、その頃からすでにその営業を継続することが不可能な状態にあつたこと、原告が別紙1記載の西村に対する三、五〇〇、〇〇〇円の借入債務を引受けた昭和三〇年一一月当時における山初印刷の累積赤字は一九、〇〇〇、〇〇〇円を超え、また、その借入金債務は約三〇、〇〇〇、〇〇〇円にも達していたし、同会社の唯一の資産であつた東京都中央区富沢町五番地所在の木造二階建建物(借地権付)には債権者木村晴彦のために抵当権設定および停止条件付代物弁済契約による抵当権設定登記および所有権移転請求権保全仮登記がなされていたうえ、右建物の一部につき白鳳産業株式会社が賃借権を有していたこと、山初印刷は昭和三一年五月不渡処分を受け、銀行取引を停止されるに及び、その営業を廃止したものであり、原告が右以外の別紙1ないし4の各債務引受をした当時はすでに事実上倒産していたものであること、右のような状態にあつた山初印刷の債務を原告において引受けるに至つたのは、原告会社および山初印刷がともに山本初三の支配するいわゆる個人会社であり、別紙1ないし4の各借入債務がいずれも山本初三の個人的に親しい間柄にある者からの借入金であつて、山本初三が保証人となつていたためであつたこと、以上の事実が認められ、〈証拠省略〉中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしたやすく信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実よりすれば、原告が山初印刷のためにした右債務引受等の行為は、正常な経済取引においては通常考えられない極めて不自然、不合理なものであり、原告会社および山初印刷がともに山本初三の支配する同族会社なるが故になしえたものといわざるをえない。したがつて、右債務引受等の行為計算は、本来、旧法人税法三〇条一項(同族会社の行為計算の否認)の規定により否認されるべき性質のものというべきである。しかしながら、原告は、前示のとおり、右債務引受等につき、引受額等に見合う金額を山初印刷に対する仮払金として計上するとともに、これに対する利息をも未収金勘定に計上し、有償債務引受および有償貸付として会計処理したため、その時点においては、右行為計算の結果、損益に不当な変動を生ずることはなく、したがつてまた、原告の法人税を不当に減少させることもないから、かかる場合には、右行為計算の結果が損益計算に現われ、租税の負担を不当に減少させる結果の生じた時点において、一連の行為計算を一体のものと観念し、これを否認するのが相当である。しかるところ、原告が本件係争事業年度において右債務引受等にかかわる仮払金(四八、六四六、三〇四円)全額を債務免除して貸倒処理したことは前示のとおりであり、これをそのまま容認すれば、右仮払金相当額(ただし、本件においては、貸倒準備金四三五、五七五円があるので、実際にはこれを差引いた四八、二一〇、七〇九円ということになる。)は原告の本件係争事業年度における課税標準から控除されて課税を免れる結果となるから、原告の右債務引受等から貸倒処理に至る一連の行為計算は、本件係争事業年度において旧法人税法三〇条一項の規定により否認されうべきものといわなければならない。

してみると、被告が本件処分において、原告が本件係争事業年度における損金として計上した右山初印刷に対する仮払金の貸倒損失四八、二一〇、七〇九円を否認したのは正当であるといわなければならない。

2 原告は、右債務引受等から貸倒処理に至る一連の行為は原告会社が千代田生命の管理下にあり、山本初三による会社支配のない状況の下でなされたものである旨主張するが、〈証拠省略〉によれば、千代田生命は原告会社に監査役および会計事務員各一名を派遣していたが、取締役を派遣した事実はなく、原告主張の内田栄助にしても、原告会社がビル建設資金の融資を千代田生命から受けるにあたつて、その仲介の労をとつたことから、山本初三の要請により原告会社に迎えられたものであり、千代田生命から派遣されたものではないこと、山本初三所有の原告会社の株式が昭和三一年五月三一日千代田生命に預託されたが、これは千代田生命の融資債権六一、〇〇〇、〇〇〇円の担保のため、右株式に質権設定契約がなされたことに基づき交付されたものであること、したがつて、右事実から原告会社が千代田生命の管理下にあつたとは認められないこと、他方、山本初三は設立以来代表取締役として業務執行の実権を握り、取締役辞任後も自己が大株主であつたことを利用し、原告会社の取締役六名中四名を自己の親戚、友人等で占め、これらの者を通じて実質上原告会社の業務執行権を支配していたものであること、現に別紙1ないし3の債務引受はいずれも山本初三が代表取締役であつたときになされたものであり、また、別紙4の債務引受は山本初三の送り込んだ取締役の賛成票決によつて決定されたものであることが認められ、〈証拠省略〉中右認定に反する供述部分はたやすく信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。してみると、原告の右主張は採用できないといわなければならない。

また、原告は、右債務引受当時山初印刷の前記建物および借地権は相当の価値があり、これを処分すれば本件仮払金は回収可能であつた旨主張するが、その当時、すでに山初印刷は莫大な累積欠損と多額の借入金債務を抱え、本件引受債務以外にも多額の債務を負担していたこと、右建物には当時賃借権および抵当権等が設定されていたことは前示のとおりであるから、右建物等を処分したところで、本件仮払金が回収される見込のなかつたことは明らかであり、現に、〈証拠省略〉によれば、右建物等の処分額は三五、二八八、六〇〇円にすぎず、本件仮払金の弁済に充てるまでに至らない金額であつたことが認められるから、原告の右主張は採用できない(なお、この点に関連し、原告は、本件仮払金が回収不能となつたのは木村晴彦に対し和解金一五、〇〇〇、〇〇〇円を支払わなければならなくなつたためであるとも主張しているが、〈証拠省略〉によれば、右和解の成立したのは本件係争事業年度後の昭和三八年五月一四日であることは明らかであるから、右主張は採用のかぎりでない。

さらに、原告は、本件と同種の山初印刷に対する未収利息一、四〇一、二三五円を本件係争事業年度の翌事業年度において回収不能として貸倒処理したところ、被告はこれを是認したところからしても、本件貸倒処理を否認すべきいわれはないと主張するが、たとえ原告主張の事実があつたとしても、これをもつて本件係争事業年度についてした被告の右否認の措置までも違法としなければならない法的根拠は全くないから、原告の右主張は採用できない。

三 以上の次第であるから、被告のした本件課税処分に原告主張のような違法はなく、したがつて、本件課税処分は正当なものといわざるをえない。

よつて、原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高津環 佐藤繁 海保寛)

別紙〈省略〉

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